今日は動機づけについて語っていきます。
今日の内容は、お気に入りの本「モチベーション3.0」を相当程度、参考にさせて頂いています。
ウィスコンシン大学教授のハリー・ハーロウが20世紀半ばに行った実験があります。
アカゲザルの檻の中に、ちょっとした仕掛けを置いて、サルたちの問題解決能力を探ろうとしました。
ところが、やってみて意図したことと違ったことが起こりました。
サルたちは何も強制されていないのにもかかわらず、熱心にその仕掛けを何度となくやりはじめました。
2週間ぐらいたつと、更にレベルを上げて、仕掛けを解くスピードが速くなりました。
誰もそのやり方をお猿に教えたわけでありません。
当時、主に二つの動機付けが行動に影響を与えると考えられていました。
一つは生理的要因です。
食欲、性欲といったもの。
けれども、この仕掛けを解いたからといってそれらが得られるわけでもありません。
もう一つの動機づけは、周囲から与えられる報酬や罰などによる動機づけです。
ソーンダイクは、空腹の猫を柵の中に入れて外に餌置きました。
そして紐を引くと箱の中から出られて餌にありつけるという仕組みです。
実験を続けていくと、猫は最初は必死に手を伸ばしたり柵の中から必死に手を伸ばしたり色々やっていたものの、次第に紐を引けば餌にありつけるということが分かり、そのスピードが増していきます。
また、スキナーも似たような実験をネズミを対象に行なっています。
これもまた箱の中にレバーを置いて、レバーを引くと箱の外の餌にありつけるという仕組みです。
そして試行錯誤を経てネズミがレバーを押す頻度が増えてきます。
これらはオペラント条件付けと言われるものです。
ところが、ハリー・ハーロウの実験ではオペラント条件付けでは説明がつかない出来事が起こったのです。
ハローは考えました。
課題に取り組むこと自体が内発的報酬に当たるという、いわば第三の動機づけです。
ハロ―はこれを内発的動機付けと称しました。
そして、約20年の時を経て1970年頃、カーネギーメロン大学の大学院に在籍したエドワード・デシはある研究を行いました。
当時人気があったソーマキューブと呼ばれるブロックでの実験です。
いろんな形をした七つのブロックを使って、それらを組み合わせることで数百万通りの形の立体が出来上がります。
実験はAとBの二つのグループに分けて行われました。
図と同じ形のソーマキューブを組み立てるられるかどうか、3日に分けて実験が行われました。
Aグループに対しては、2日目だけ成果が出たら報酬を出し、1日目と3日目は報酬なしでした。Bグループに対しては3日間とも成果が出ても報酬はなしでした。
1日目は、両グループとも報酬なしです。
特に二つのグループに変化は見られません。
2日目は、グループAに報酬が与えられました。
当然と言えば当然かもしれませんが、Aグループの方がより長くソーマキューブに取り組んでいました。
ところが3日目に想定外の事が起こりました。
再び両グループとも報酬なしになったのですが、3日間とも報酬なしのBグループは、1日目や2日目より長い時間、ソーマキューブで遊んでいました。
一方、2日目に報酬をもらったAグループは、1日目や2日目よりもソーマキューブに取り組む時間が減ったのです。
デシは述べます。
「ある活動に対する外的な報酬として金銭が用いられる場合、被験者はその活動自体に本心からの興味を失う」と。
また、こうも言いました。
「報酬の隠された代償(コスト)」とも。
確かに、産業革命から1900年代へと至る中で、科学的管理により大量生産を計るテイラーシステムなどでは、この報酬による動機づけはうまくいきました。
頑張った人には報酬を出し、頑張らなかった人は報酬を下げる。
言わばアメとムチのシンプルな仕組みです。
ところが、この動機付けは、単純反復作業やルーチンワークというものに対しては効率的ですが、先ほどのソーマキューブ実験のようにクリエイティブな仕事には逆効果になるのです。
この21世紀の時代にあっては、 AI に取って代わられるような仕事に対してのアメとムチによる外発的動機づけよりも、 AI に取って代わられることのないクリエイティブさヒューマンスキルなどに影響を与える内発的動機づけを高めることが求められているのです。
アドラー心理学では、これを褒めると勇気づけるの違いで解説します。
子育てで説明すると分かりやすいでしょう。
親は子供を何とかしようとご褒美をあげたり、褒めてあげたり、あるいはその逆に叱ったり 、おやつなしにしたりします。
確かに一時的には上手くいくかもしれません。
けれどこのやり方にはリスクがあります。
子供は学びます。ご褒美がもらえることだけやろう、褒められることだけやろう、叱られないように頑張ろう、叩かれないように頑張ろう。
この時、子供のやる気、子供の動機づけ、子供の興味関心は自分にはありません。
親がどう思うか、親が何をしてくるくれるか、外発的動機づけになるのです。
一方、勇気づけは子供の内発的動機づけにアプローチします。
上の立場の人間が下の立場の人間に対して、結果を出したかどうかによって与えるアメとムチではなく、結果がどうあったとしても子供の気持ちに共感し、子供が頑張った過程に注目する対等な関係で子どもの内なるものを喚起します。
外発的動機づけでは、それがなくなった時、デシの実験のように、かえってやる気がなくなります。
一方、内発的動機づけは持続します。やる気が高まります。
これは子育て分野に限りません。
企業の多くは、いまだ外発的動機づけが主流なのではないでしょうか。
この内発的動機づけの重要さに気付いたGoogleやyahoo等の大企業では、この内発的動機づけを高めるべく様々な取組みが行われています。
もしかしたら、企業に所属するサラリーマンよりも、極端な話、ユーチューバーやフリーランスの方が、やりたいことをやっていて、もちろん一定程度の収入があった上でですが、その方が内発的動機は必然的に高いのかもしれませんね。