今日は心理学についてのお話です。
「制服効果」という言葉があります。

これは、人はその服装によって、気持ちも態度もその服装に沿ったものになりやすいというものです。

典型的なものがスーツです。
着ると何か気持ちまでシャキッとしますよね。


私はかつてスーツなんて全く無縁の仕事をしていたのですが、転職してスーツを着るようになった時、なんか自分のステージが上がったかのように感じました。話す言葉もカッコいいというか「ザ・ビジネスマン」風な。

あるいはスポーツウェアを着ると何となく体が軽くなり駆け出したくなります。

私は経験ありませんが(あったら怖いですが)、メイド系もそのファッションになると何か気持ちの変化があるんでしょうかねぇ。お嬢様というかメイドの気分を体感できる。

私の友達で、銀座の写真でよく見ると思うのですが、時計台がある壮麗な建物の「和光」で働いていた方がいます。その人を見ていると確かに「和光」の空気感を感じさせられるというか、あぁなるほどと納得します。

ちょっと怖い実験でスタンフォード監獄実験というものがあります。

これは今から40年ほど前、スタンフォード大学でフィリップ・ジンバルドーという心理学者が、刑務所を舞台に普通の人を看守役と囚人役に分けて実験を行ったものです。

当初は2週間の予定でしたが、想定以上の大変な状況が起こり、途中で実験中止となりました。

実験は意図的にリアリティに迫るよう逮捕のシーンから始まり、シラミ駆除剤を囚人役に散布し、片足には南京錠のついた鎖が巻かれました。

次第に看守役は誰から指示されたわけでもないのに、囚人役に対して厳しい対応を取るようになり、やがて罰則を与えるようになりました。反抗した囚人役を独房に入れたり、バケツへ排便を強要したりしたのです。

そしてまもなく囚人役の一人は精神錯乱状態となり実験を離脱しました。

にもかかわらず、状況はむしろ悪化していき、看守役は囚人役に対してより厳しい対応を取るようになりました。

最終的には囚人役に対して暴力が振るわれるようになってしまったのです。
そして実験は途中で中止となってしまったのでした。

善意の一般人を囚人役と看守役に分けることが、想像以上の実験効果をもたらしました。

人は、その外見や肩書に沿った思考・行動パターンを取っていく傾向があると言えるでしょう。

そんなことをまざまざと感じさせる実験だったに違いありません。

また、こんなこともあります。
かつて、ナチスドイツのアイヒマンという人の裁判を傍聴した人々は衝撃を受けました。

いったい何に衝撃を受けたのか?

それは、ナチスの要職を務めた人間とはいったいどんな人間なんだろう?と、とんでもない大悪人のようなものを予想していたのが、裁判で見たあまりに予想外の彼の凡人さであり、どこにでもいそうなみすぼらしい小役人だったということです。

アイヒマンは言いました。

「命令に従っただけ」

その場で傍聴していた哲学者ハンナ・アーレントは、彼が、血も涙もない「怪物」ではなく、家族を大切にするごく普通の小心者で取るに足らない役人に過ぎなかったことを「悪の陳腐さ・凡庸さ」と言いました。

そして、
「悪とは、システムを無批判に受け入れることである」と。

深い言葉です。
まさに、先ほどのジンバルドーの実験を彷彿とさせます。

であるならば、制服効果の発想は、こんなナチスの大虐殺や先ほどの怖~い実験よりももっと健全な方にこの考え方を活かしていきたいものですね。

もっと身近な話をしていきましょうか。

重い精神疾患にかかっている人の中には、背中が猫背で丸く、前かがみで足を引きずって歩くような方がいます。顔もうつむき加減です。

これらの方々は精神疾患によってそういった外見になったとも言えますが、一方、見方を変えればその外見が病状をより悪くしているとも言えます。

私は、外見や姿勢がメンタル面にいかに影響をもたらしているかを理解してもらうために、しばしばミニワークを行います。

これをお読みの方もちょっとやってみていただけますでしょうか。

ちょっと椅子を下げてください。
ゆったりと椅子に深く座る。

そして、まず背中を丸め、肩を落とします。
頭は前のめりにうつむき加減にします。

床を見ます。両足の間に頭がのめりこむように入っていきます。
体ごと地面の下までどこまでも深く落ちていくかのように。

ため息と共に吐き出すように言います。

「だめだ~」

「だめだ~」

「だめだ~」

いかがでしょう?

いや~、ダメ人間の一丁出来上がりですね。
ほんと、気分が萎えますよね。

ではまた明日~

・・・・・・それじゃ、怒られますね。

では次に、椅子に深く座り、胸を広げます。
肩甲骨の間を狭くするように両肩を後ろの方に反らします。
呼吸が深くなります。

顎を上げ、顔を上げ、斜め上を見てください。
はるか空の向こうを見るように、ななめ30度ぐらいの彼方を見る。
両手の平を上に向ける。

そして同じように言ってみましょう。

「だめだ~」

「だめだ~」

「だめだ~」

・・・ん?あれ?
もう一回。

「だめだ~」

あれれ?

いかがでしょう?
そうです。さっきとは全く気分が変わりますよね。

同じ言葉でも、その姿勢や外見により、これほどまでに変わるのです。

坂本九は歌いました。

「上を向いて歩こう」

これはなにも、涙がこぼれないようにするためだけではないのです。
上を向くことによる精神的効果もまた計り知れないのです。

これはまさに活きた生活の知恵なのではないでしょうか。

そうです。
メンタルヘルスは見た目から入れ!というのも一つの方法なのかもしれませんね。