日本発の数少ない心理療法の一つに森田療法というものがあります。

森田療法の祖、森田正馬(しょうま、まさたけとも言う)は、19世紀後半から20世紀初頭に生きた人で精神科医として活躍しました。

自分自身がノイローゼにかかって大変悩んだものの、大学時代に父親の仕送りがたまたま途絶えてしまった時に、破れかぶれで死んでもいいやぐらいに思って勉強したところ、症状が軽快したことをヒントにやがて森田療法を創設しました。

森田が最も恐れた「死」に対しては、「死は恐れざるを得ず」として、「あるがまま」の生き方を実践ました。

やがては、若かった頃の神経症的生活から全く真逆のあるがままの自然体に生きた人でした。

森田療法は、森田の時代においては、対人恐怖症、強迫性障害、パニック障害等のいわゆる神経症と呼ばれる症状に効果を発揮しました。

他にも睡眠障害の方などにもビックリするようなアドバイスをして軽快させています。

当初は絶対臥辱と呼ばれる入院療法がメインだったものの、現在においては慈恵医科大学などでしか行われておらず、一般的な精神科の診察で外来森田療法が主流となっています。

精神科医の方で森田療法に知見のある方は少ないものの、100年の時を経てなおその意義は評価され続け、今では終末期患者やがん患者、ひきこもり、うつ病等にまで対象が広がっています。

ちなみに、森田療法で効果があるタイプの性格を森田神経質と呼びます。

日本森田療法学会では森田神経質診断基準案を作成しています。

そこでは症状の臨床的特徴として以下のようなものがあります。
森田神経質の症状レベルとしてA、Bの基準を満たすと共に、Cの5つの基準のうち、三項目を満たすこと。

A.症状(悩み)に対して異和感を持ち、苦悩、苦痛、病感を伴う(自我異質性)
B.自己の今の状態(性格、症状、悩み)をもって環境に適応し得ないという不安がある。(適応不安)
C.症状内容の特徴、症状への認知、関わりあいかたなどの項目のうち、三項目以上を満たすこと。

1.いつも症状(悩み)が起こるのではないかという持続的不安を持つ(予期不安)
2.症状(悩み)の焦点が明らかである(主に1つのことについて悩んでいる、防衛単純化)
3.自分の症状(悩み)は特別、特殊であると考える(自己の悩みの特別視)
4.症状(悩み)を取り除きたいという強い意欲を持つ(症状克己の姿勢)
5.症状の内容が、通常の生活感情から連続的で、了解可能である(了解可能性)

専門家向けに書かれたものなので、ちょっと難しい所もありますが、これが森田神経質者の症状に対してのあり方の特徴です。

これを見て何か気付きませんか?

それは森田神経質の方は症状を徹底的に否定していることです。

症状をあってはならない、受け入れられないと、否定しているのです。

症状をまるでがん細胞のように異物化しているんですね。

そして、ここからが森田神経質の特徴ですが、症状を警戒し、症状を恐れ、症状をコントロールしようとすること、それら全てが注ぐエネルギーが逆説的に症状悪化の原因となっていきます。

森田はぞれを精神交互作用と言いました。

意識すればするほど、否定すればするほど、症状は化物のように大きくなっていき自分を苦しめるのです。

そして大きくなった症状に更に注目し、注目すると更に症状が意識に上るという悪循環を繰り返すのです。

なんとかしようとしたこと全てが、症状を悪化させるのです。

ここに森田神経質の皮肉さというか特異さがあります。

では、どうすれば良いのでしょうか?
答えはシンプルです。

うまくいかなかったことと真逆のことをするのです。

それは何か?

それは症状を受容し、症状に対処しないことです。

そして症状がひどかろうが何だろうが、それは一旦脇に置いておいて、今この場でなすべきこと、したいことをする。

これが森田療法の核心です。

パニック障害、対人恐怖症、強迫性障害等の神経症の方々は症状中心の生活になります。

症状があるかないか、症状が軽いか重いか、症状がまた起こるのではないか、などと毎日を症状と共に生きます。

そして、精神科医やカウンセラーに対してももちろん、症状の話ばっかりになります。そのあり方が、悲しいかな益々自分の症状を苦しめているとも知らずに。

だから、相談に乗る精神科医などには、あまり神経症者の話に引っ張られないようにする必要があります。そういった意味もあって症状を問わない不問療法とも言われます。

かといって冷たくならずにしっかりと話を聴く姿勢が求められるでしょう。
そして、精神科医も不問、患者も不問と言った所で、じゃあ患者が症状を不問にできるかどうかというと全く別物でしょう。

途方もないほどの恐怖感に襲われる中で、そう簡単に症状をほっとける人はまずいないのではないでしょうか。

いきなり全てを回復させることは困難なことでしょう。

だから必要なことは、小さな小さな一歩を進めていくことです。
森田神経質の方にとってまず必要なことは、自分が囚われていた悪循環の仕組みについて知ることです。
そして自分の症状や感情を否定せず、恐怖なら恐怖、不安なら不安をそのままに見つめ、受け止めることが必要となります。

スタートはここから始まります。
中には、この段階で良くなる人もいます。

理解しておく必要があることは、自然治癒などまずないだろうということです。
これまでと同じパターンで症状と付き合っている限りは、まず間違いなく症状はあり続けることでしょう。

そして大事なことは、変えるのは思考でも感情でもない、行動以外にはないということです。行動こそが何かを変え得るのです。

神経症の皆さん、頭の中であぁじゃないかこうじゃないか、あぁなったらどうしようなどとばかりやってはいませんか?