今日は国の福祉制度について、二つお話ししていきます。
私は以前、障害者の就労支援の仕事に従事していました。
私が支援していた人で、生活保護を受給しているAさんという方がいました。
かつては、自営業でバリバリ働いていたのですが、ゆえあって障害者手帳を取得しました。
今はその仕事に区切りを付けて無職となり、生活保護を受けながら何とか就職しようと活動していました。
就活をしていくとどうしてもあれやこれやとお金がかかります。
面接を受けるにあたって、その方が言いました。
交通費が大変だと。
生活保護というのは本当に最低限度の生活費しか支給されません。
本当に爪に火を灯すような状況です。
私は言いました。
市役所のケースワーカーに相談してみてくださいと。
国は生活保護の方の就労を促進するよう進めています。
まだ働ける方、働ける可能性のある方が職に就くことは、本人にとって良いことだけでなく、生活保護費の削減、更には税金を納めることにつながるのですから。
そして、生活保護の方が就活するにあたっては、交通費が支給されることとなっています。
Aさんも申請すれば支給されるはずと思いました。
ややあって、Aさんから支給されましたとの報告がありました。
ところが、私は既に違和感を持っていました。
なぜか?
それは、Aさんほどの社会経験がある方でさえ、そういった情報を知らなかった。情報が届いてなかった。
もし、私が気が付かなかったら?
そして、もしかしたら、Aさんでさえそうなのだから、生活保護を受給している軽度知的障害の方や、精神障害の多くの方は交通費をもらわないで就活しているのでは?
ただでさえ、就労にハンディキャップがあるのに、さらには就労を促進されているのに、現状はそもそも論の就活の入り口の所で逆に足止めさせているのでは?
私は市役所の親しい方にそのことを話しました。これはおかしいのではないか?
担当に話しておくと言いましたが、その後の反応がいまいちピンときません。直接、担当者に聞きに行きました。
不正受給を防ぐため、申請主義等、なんとなく分かったような分からないような話。
では、せめて受給する際に情報提供があってしかるべきでは?パンフとかは?
情報量が多すぎるのでとパンフというのはないんですとの返答。
役職者に聞いても似たようなお話。
う〜ん、私の理解力がないのか。
結局のところ、うやむやなまま退職日が近づいていき、そのまま何がネックになっているか把握できないままに終わりました。
シンプルに考えてみれば、生活保護を抜けるために働けと言われても、就活する交通費が大変となれば、当然、就活に大きな影響が出ます。
申請主義と言われても、こんな状況では自腹で払っている方が多くいるはずです。
そしてもう一つ、何度も体験したことがあります。
障害を持って働きたいという方で精神疾患をお持ちの方は、精神科や心療内科に通院されている方が多くいます。
そういった方が働きたいと言ってご相談に来られた時、インテークと言ってあれやこれやと情報を聞き取ります。
健康面、就労面、生活面、金銭面、家族状況等々。
その方が生活を維持していくために、最低限いくら給料をもらえばいいのか、例えば障害年金等と絡めて考えます。
精神科等に定期的に通院されている方には自立支援医療と言って、本来の医療費3割負担が、1割負担もしくは低収入の方は無料になるという制度があります。
そこで精神科等の通院状況を伺った際に何度かあったことですが、自立支援医療を受けていますか?と聞くとなんですかそれ?とか、受けてないと言います。
そこで聞きます。
通院してどれぐらいになります?
すると、〇年ぐらいになりますという返事。
思わず、「・・・」となってしまいます。
本来、制度を知っていれば3分の一、もしくは0円で済むところを、ずっと払い続けていたのです。
そこで、こんな制度があるんですよなどと言っても、こういった精神疾患を持たれている方々の中には制度等の手続きがなかなか一人でやることが苦手な人がしばしばいるので、市役所の窓口などに一緒に行って手続きをして、それからは安く医療を受けられるようになりました。
こういったケースを何度かやる度に思いました。
もし私が聞かなかったらこの方々はどうなっていたんだろう?と。
ほとんどが精神疾患があるがゆえになかなか定職に就けなかったりして、収入面が相当厳しい方々ばかりです。
五、六百円の弁当が高いので、昼飯をカップラーメンかパンだけで済ましてたりするのを何人も見ました。
よりによってこういった最も必要としている方々に届かない制度って何だろう?と。
どうして、毎回、医療費を受け取る精神科の受付の人は教えてくれないんだろう?
どうして、ケースワーカーでもいい、医者でもいい、一言聞いてくれないの?
行政には行政の事情があるでしょう。
病院の窓口は金をもらえれば、本人からでも自立支援医療からでも確かにどっちでもいいことでしょう。
「自立支援医療を受けられると思いますよ」
「自立支援医療を受けていますか?」
「就活の交通費出ると思いますよ」
たった、たったです。この言葉が出せない壁が何なのか、私の脳ミソではいまだに腑に落ちていないのです。