今日は私が福祉職に成りたての頃の二つのエピソードをご紹介します。
まず最初のケースです。
ある若い発達障害の女性の方の就労支援を担当していました。
その頃は私自身、発達障害に対する知識がまだそれほどなかった頃です。
その方はとても繊細な方でした。
繊細すぎるがゆえにこそ生きづらさを抱えていたのかもしれません。
就労前にまずどこかに通うということが課題になっている方でした。
しかし、本人が就労を望む以上、意見は言っても強制することはできません。
私はまだ早いと思いながらもサポートしていました。
ある会社の面接が決まりました。
私は面接に同行しました。
フォローするためです。
面接会場に着きました。
待合室に待機するよう言われました。
まるでバロック調の様な荘厳な部屋でした。
面接を受ける人の緊張を高めるにはもってこいの部屋です。
彼女がカチカチになってるのが隣から伝わってきます。
横を見やると顔が青ざめています。
私は努めて淡々と振る舞います。
彼女にかける言葉は彼女の耳には届きません。
透き通った風のように流れていきます。
息がヒューヒュー言い始めました。
私の勇気づけ魂にカチッとスイッチが入りました。
「手出して」
「はい?」
「手を」
「はい?」
彼女は不思議そうに手を出しました。
「がんばれ~」
ぎゅ~っと握りました。
面接を終えました。
彼女は部屋を出るやいなや流しのある部屋にダダーッと駆け込みました。
肩で息をしています。
ゼーゼーゼー。
私は肩に手をかけました。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
このまま帰すわけにいかないと思い、建物の1階にあるカフェに入りました。
ほぐそうと思って少しおしゃべりをしました。
彼女は次第に緊張が取れてきて笑顔が戻りました。
次の日のことです。
彼女から職場に電話がかかってきました。
女性社員が出ました。
「担当を佐藤さんから変えて欲しい」
???
要は、手を握られたり肩に触れられたりしたことが嫌だったということでした。
同僚や上司は私がそこまで変態ではないということは分かってくれていた?のでうまくフォローしてくれました。
私は後から知りました。
発達障害の方の中には感覚過敏の方が多いと。
オーマイガーッ!
私が最も心を込めたことが、皮肉にも 相手にとっては最も嫌なことだったのでした。
まだ福祉職に就いて間もない頃の若き過ちなのでした。
次も私が福祉職に就いて本当に数か月の間もない頃の例です。
それまでは全く業界の違う世界で生きてきました。
私にとって初めての福祉職はドキドキワクワクハラハラでした。
あるAさんという統合失調症という疾患の男性がいました。
最初に私に声をかけてくれました。
私が麻雀店で働いてたということを知って、麻雀サークルがあるのでいかがですかと誘われたのです。
私はもう麻雀はうんざりという気持ちだったのですが、せっかく声を掛けて頂いたので時折参加することにしました 。
Aさんは喜んでくれました。
そして色々話していくうちに私のことを好いてくれて仲良くなりました。
佐藤さんのような人を待っていたとベタ褒めだったものの、要は麻雀出来る職員欲しかっただけでしょ~といったような。
ややあってのことでした。
3ヶ月後、職場から電話が入りました。
Aさんが亡くなった。
突然死だったようです。
私はAさんが嬉しそうな顔をして、あなたのような方を待っていたと言われた時の事を忘れられません。
そしてもう一人。
B さんという方がいました。
この方も統合失調症を患っていました。
この方は施設の産業医である精神科医から通って来ているだけで奇跡と言われるほどの服薬量を飲んでいました。
佐藤さん~などと親し気に話しかけながら、いつもフラフラよろめいていたのを覚えています。
とある日、私はある方の精神科通院に同行した際に、近くの薬局でBさんと会いました。
思わずギョッとしました。
20センチ四方ぐらいの籠から薬がはち切れんばかりに入っていました。
私がこれまで会ってきた人の中では、おそらく彼が最も多い服薬量だったと思います。
精神科医療領域で、向精神薬の量が多いか少ないかを示すクロルプロマジン換算という言葉があります。
要は、一人の人が飲んでいる抗精神薬の量の数値が1000以上だと過量服薬だよという意味です。
私の同僚がBさんのを調べてみたところ、10000を超えたそうです・・・・・・
しかもです。これはある種類の薬にだけ適用された数値であり、Bさんが処方された他の薬も合わせると一体どれだけの量だったのか。
想像を絶します。
私はやがて他の職場に異動し、風の噂で聞きました。
Bさんが亡くなったと。
突然死だったようです。
近年はより副作用の少ない薬が出てきています。
ただ、数十年前から向精神薬を飲み続けている方にとっては薬を変えるのも大変でしょう。
時代の背景もあるでしょう。
世界を見れば単剤(一種類)でお薬を出すのが多いと思いますが、かつての日本では、統合失調症に対して多量多剤処方と言われるように、たくさんの種類の薬を処方することがありました。
今でもその名残は残っています。
精神科医の諸事情もあるのかもしれません。
ただ、私は薬の専門家ではありませんが、個人的に薬について懐疑心を持っています。
薬関係で働いている友人とは、時々、あぁだこうだとブーブー話します。
睡眠導入剤や抗うつ薬等、必要な時に必要なだけの量を、そして必要に応じて止める方向性を持って飲むのは良いでしょう。
けれども、どうなんだろうという場面を見てきました。
これは必ずあることと思いますが、統合失調症の誤診によって薬が処方され、陽性症状という派手な症状を抑えるようでいて抑うつ気味になるので、今度はそれに対して処方してなどと段々薬が増えていって、もう減らすことすらできなくなるみたいな漫画の世界のような話が、精神科医療ではあります。
精神科医療は本当に難しい世界で、精神科医によって診断名が違うことはままあります。
そしてその見立ての誤りによって、いわゆる医原病という、医療を受けたばっかりに処方違いでかえって精神病になってしまったケースはいったいどれぐらいあるんでしょう?
おそらく、精神科医の方なら想像が付くでしょう。
誰しもが薄々とは感じながら、モヤモヤしたままに歴史の闇に葬り去られているケースはいったいどれぐらいあるんでしょう?
私はいまだに覚えています。
20代後半、あがり症の症状に苦しみ、心療内科に行った時の心療内科医がカルテにパニック障害と書いていたのを。
んなもん、胸やけを肺炎と間違うようなもんでしょう。
あり得ません。
いずれにしろ、時代の流れは、精神医療は減薬の方向に向かっています。
北欧ではオープンダイアローグという手法が統合失調症に驚くべき効果を上げています。
なんとか、薬をなるべく飲まずに治す方向にいってほしいものです。