私は東京でしか対人援助の仕事をやったことがないので自信を持っては言えませんが、東京には東京ならではの精神的な悩みがあるように思います。

それは電車の悩みです。

パニック障害が典型でしょう。

電車の中で急激な不安・動悸・めまい・発汗・震えなどで、人によっては死ぬのではないかと思うぐらいの状態になります。実際に倒れる方もいます。

一度そういった状態になると、また同じことが起きるんじゃないかと心配して、いわゆる予期不安が高まって、また電車に乗ることが不安になります。

そしてパニック障害に限りません。

電車の中で他者の視線が怖い、人がぎゅうぎゅうしている圧迫感が苦しい。顔が上げられなくなって下を見たり、目をつむったりします。

これらは、メンタル面が重くなればなるほど比例して生じる傾向があるような気がします。

けれど、そんな状態でもなんとかして通勤しなければならないわけです。
首都圏の衝撃的なまでの満員電車を。これは本当に辛いことと思います。

私は後世においては、あの時代の日本の通勤風景として伝説的に残るような気もしています。

そして、いつか東京病として命名されるに違いないと。
それはさすがにないか。

まぁ、現世ではパニック障害の方は急行に乗らずに各駅停車に乗ったり、始発から座って乗ったり、様々に皆さん対応されているようですね。

私は思うんです。

北の国からの世界を。

知らない人がいるかもしれませんが、20~30年ほど前にしばしばテレビドラマでやっていた北海道富良野の一家の物語です。

電気もガスも水道もないようなところを開墾してそこに住む。

まるで大草原の小さな家のような。

そこでは、ささやかに生きる人々にも確かに悩みはある、葛藤もある、喜怒哀楽もある。

けれどもそこには大自然がある。
ちっぽけな人間の悩みなどどこかに吹き飛ばしてしまいそうなぐらいの広大なる大地。

泣きながら一人布団に入る側では、虫たちの鳴き声が聞こえてくる。

傷ついた夕暮れには、我が身を朱色に染めながら突き通す夕焼けに浄化される。

不安に悩む夜のしじまには、星々がまばゆく煌めき、心を静める。

私は思うんです。
それらに勝る抗不安薬はないのかもしれないと。

実際どうなんでしょうかね。電気も水道もテレビもないそういった土地に住んでいる方の精心疾患の有病率を聞いてみたいものです。

絶対少ないと思うんですけどね。

話は変わります。

また、パニック障害の理由として心身の状態というのももちろんあるでしょうが、パニックの症状が目的になることもあるように思います。

パニックの症状の目的?
ピンとこないかもしれません。

例を上げましょう。

あるクライエントの方がいました。
パニック障害的な症状で悩んでいるとのこと。

聞いてみると、不安の感情が日常的に強く、特に夜に発作が起こっているようでした。

クライエントは言います。

何か原因があるのではないかと思うんです。どうもよくよく考えてみると冬場や低気圧の時に悪くなるんですとのこと。

なるほどたしかに、うつの方には寒い時期が弱い方が多いですし、低気圧でメンタルヘルスに影響が出る人はしばしばいます。

しかし、何か匂うんです。
ホントかなと。
もちろんそんなこと考えているなんておくびにも出しません。

私はビフォーアフターを聞きました。
要は、パニックの症状が起こる前、起こった後にどんなことが起こっているのか、詳細を聞きました。

すると、見えてきたのです。

パニック発作が起きる前は一人になることが多く、発作になる直前は誰かを呼んだり、自分から助けを求めていたことに。

そうして誰かが近寄ってきたり、誰かにいっぱい話しをすると落ち着いてくる。

アドラー心理学では人間のあらゆる行動には目的があると考えます。

それは行動だけでなく、感情も、夢も、身体症状も、そしてパニック発作にも。

とするならば、この状況でのパニック発作の目的は何か?

それは誰かの注目を集めること。
あるいは、症状を使って自分の力の確認をすること。

その証拠と言って差し支えないかと思いますが、人が寄ってきたりして結果が得られると、発作が収まっていくのです。

その方は、それを私が指摘した後、次第に症状が和らいでいきました。

自分が無意識的に選んで使っていた症状が人に知られて、恥ずかしくて使えなくなったのでは?と私は推察しています。

弱さは力です。
弱さで周囲の人を支配する人がいます。

女の涙は最強の武器です。
涙で会話する人がいます。もうこれ以上責めないでと。

赤ん坊は世界で一番強い人間です。
弱さや感情や行動など何でも使います。

人は、時にパニック発作をも使って自分の知らない自分の目的を叶えているのです。

その目的は、注目を集めることだったり、人をコントロールすることだったり、会社にもう行っちゃいけないという身体からの指示だったり、様々です。そして一度成功すると病みつきになっていきます。

たとえそれが自分を苦しめるいびつな手段であったとしても。
効果がある限り。あるいはそのやり方がバレない限り。

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